ヒトの癌の発生は数個以上の遺伝子突然変異の蓄積によって引き起こされることが知られており、特に点突然変異は頻度が高いために癌診断の有力なツールとしてみなされてきた。最近、大腸菌のDNA修復機構を制御するMutS蛋白(不適正塩基対修正酵素)の生物学的特性を利用した遺伝子変異の検出報告が散見されるようになり、その検出感度の高さに注目が集まっている。MutS蛋白はDNA2本鎖の塩基対不適合(ミスマッチ)部分に特異的に結合するので、結合量を指標にして点突然変異やインサーション、デリーションといった変異を、電気泳動を用いずに高感度に検出しうる。申請者らは以前より、末梢血の血清成分に遊離した組織由来の微量DNAを解析することにより消化器癌を非侵襲的に診断する方法を模索しており、MutS蛋白を用いた検出方法が既存の方法に比して極めて感度が高く、点突然変異検出の偽陰性率は1%以下であることを見い出している。さらに詳細な予備的検討から、1)血清のDNA量は3-100ng/mLと少なく、症例毎に大きな差があり、通常のPCR解析が困難な症例が存在すること、2)血清中のDNA末端はリン酸化されているために、非リン酸化アダプターによるligation-mediated PCR(LM-PCR)によって非特異的な全体の増幅が可能であることを確認した。この得られた知見を基に申請者が構築したアッセイに応用したところ、少量の血液から広範囲にわたる遺伝子の変異解析が可能であった。本研究の目的は、実際に多くの消化器癌患者の血液サンプルの解析を行い、簡便で精度の高い癌スクリーニング法の確立を検討することにある。
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