研究概要 |
最近、大腸菌のDNA修復機構を制御するMutS蛋白(不適正塩基対修正酵素)の生物学的特性を利用した遺伝子変異の検出報告が散見されるようになり、その検出感度の高さに注目が集まっている。MutS蛋白はDNA2本鎖の塩基対不適合(ミスマッチ)部分に特異的に結合するので、結合量を指標にして点突然変異やインサーション、デリーションといった変異を、電気泳動を用いずに高感度に検出しうる。申請者らは以前より、末梢血の血清成分に遊離した組織由来の微量DNAを解析することにより消化器癌を非侵襲的に診断する方法を模索しており、MutS蛋白を用いた検出方法が既存の方法に比して極めて感度が高いことを見い出した。そこで、健康診断による検出が困難である膵癌・胆管癌に対して、血漿に遊離した腫瘍DNAを利用して癌抑制遺伝子の解析を試み、血液サンプルによる診断方法を検討した。 癌患者の末梢血から、白血球画分DNAと血漿画分DNAを別々に抽出して、p16 exon 1-2, p53 exon 5-8 のPCRを各々行った。(1)同一患者の白血球PCR産物と血漿PCR産物を互いにアニールさせてMutS蛋白と反応して、血漿DNAの遺伝子変異によって生じるミスマッチheteroduplexの検出を試みた。(2)血漿DNAにmethylation-specific PCRを行い、腫瘍由来のメチル化p16を検索した。その結果、膵癌25例中18例(72%)(p16変異6例、p16メチル化10例、p53変異9例)、胆管癌33例中24例(73%)(p16変異10例、p16メチル化11例、p53変異6例)と高率に血液サンプルから遺伝子異常の存在を検出できた。以上より、血漿DNAを用いた解析法は、固形癌の遺伝子学的スクリーニングとして有用である可能性が示唆された。
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