胃粘膜上皮細胞は一定の寿命で絶えず更新され動的平衡を保っている。この動的平衡は胃小窩底部の増殖細胞帯に存在する幹細胞が繰り返し細胞新生し、さらに分化することにより保たれている。増殖細胞帯の新生細胞は一部は上方へ移動し被蓋上皮細胞に、また腺底方向へ移動し、胃底腺領域では壁細胞や主細胞などに、幽門腺領域では幽門腺細胞やガストリン細胞などの内分泌細胞に分化成熟していく。胃粘膜細胞構築における胃酸の重要性を検討するため、選択的壁細胞破壊マウスを作成した。胃粘膜壁細胞に特異的に発現される、H^+K^+ATPase β subunit遺伝子のプロモーター領域に4kbのジフテリアトキシン遺伝子を組み込んだBluescriptIIをFVB/Nマウスの卵母細胞に移入しtransgenic miceを作成した。すなわち、増殖細胞帯に存在する幹細胞から、細胞が新生され、腺底方向へ移動しながら壁細胞へ分化していく過程において、H^+K^+ATPaseが発現されようとすると、H^+K^+ATPaseのプロモーターが働き、ジフテリアトキシンが発現され、細胞がその毒性により破壊されるのである。このtransgenic miceは、胎生期、生後ともに正常に生育した。胃内には壁細胞は認められず、全くの無酸状態であった。胃底腺粘膜は腺頚部下方の未分化な副細胞の数の増加、腺底部主細胞の減少が認められ、壁細胞の選択的破壊が、他の胃粘膜上皮細胞の分化成熟に影響を及ぼすと考えられた。また、臨床的に汎用されるプロトンポンプ阻害剤は、強力な胃酸分泌抑制作用を有し、これら薬剤の長期使用により、胃粘膜上皮細胞の動的平衡に対し影響を及ぼすことが危惧される。ラベプラゾール3mg/kgを1年間毎日皮下投与したところ、投与2週間より胃底腺の壁細胞の空胞化が認められ、6ヶ月まで持続的に空胞化が認められた。12ヶ月後には胃粘膜萎縮が認められた。血清ガストリン値は3ヶ月以降は有意な上昇は認められなかった。長期胃酸分泌抑制は胃粘膜構築に影響することが認められた。
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