研究概要 |
膵癌・肝癌に対するアンチセンス療法の可能性を追求するため、腫瘍選択性の向上を目指して研究を行った。 1.これまでc-rafに対するアンチセンスオリゴ核酸を用いて、膵癌・肝癌細胞株に対するその抗腫瘍効果を検討してきた。その一連の研究として、シグナル伝達系のc-rafの上流のK-ras変異について臨床膵癌手術材料を用いてtissue microdissectionとdirect sequencingにより再評価した(Pancreas,in press)。膵癌では、K-ras変異の検出に高感度法を用いるとほぼ100%に変異が検出されるようであるが、その癌細胞集団全体の特異的な遺伝子形質であるかどうかには疑問が残っていた。今回の測定法でも8割の例にK-ras変異を見い出し、かつその半数にK-ras変異遺伝子の増幅が推定され、膵癌の発現進展におけるK-ras変異の意義を改めて示した。したがって、膵癌においてK-ras,c-rafをアンチセンス治療の標的遺伝子とする系の構築は、今後も検討して行く価値のあるものと考える。 2.これまで行ってきた研究と文献的に蓄積された知見に基づいて、繰り返しの全身投与を前提としたプラスミドまたはオリゴ核酸の担体としての腫瘍指向性ペプチドベクター(cRGD-hK)をデザイン考案した。合計36アミノ酸残基よりなり、環状のRGDモチーフを結合したヒスチジンを側鎖に有するポリリジンで、腫瘍組織に集合し細胞に取り込まれた後にエンドソームからのプラスミドまたはオリゴ核酸の遊離が促進される機能を想定している。ルシフェラーゼ遺伝子を発現するプラスミドをリポーターとして、肝癌細胞株を用いたin vitro,in vivoの実験で、cRGD-hKの有用性を示唆する結果を得た(第3回米国遺伝子治療学会発表予定)。
|