研究概要 |
我々はレチノイドによる肝発癌抑制をテーマとして、一貫して研究を進めてきた。その重要な成績は、以下の通りである。 1)7年間という長期の臨床的追跡調査により、非環式レチノイドが二次原発性肝癌の発生を抑制するのみならず、肝癌の発生を抑制することにより患者の生命予後をも改善することを明らかにした(N Engl J Med,340:1046-1047,1999)。2)この非環式レチノイドは単一の核内受容体にリガンドとして結合するのではなく、かなり広範囲の核内受容体と結合することが明らかとなった。この核内受容体は細胞特異性があり、そのレチノイドとの反応性にも細胞により違いが認められた。これは分化誘導やアポトーシス誘導機序を考える上でも、今後の薬剤デザイン上も重要と考えられた。3)関連する核内受容体のひとつであるレチノイドXレセプターの特定部位(260番目のセリン残基)のリン酸化の状態や、代謝の速度に差があることが明らかになり、これが肝細胞の癌化と強く結びついている可能性が示唆された。4)非環式レチノイドとインターフェロン(IFN)-βを加えることにより相乗的にアポトーシスの誘導を高めることが出来る。この時、非環式レチノイドによりIFN受容体の膜表面への表出、細胞内シグナルであるSTAT1の量ならびにその活性、さらに下流にある2,5AS活性を上昇させることを認めた。 これらの知見は、肝癌細胞内で変化を来した核内受容体分子を標的として、そのリガンドである非環式レチノイドを用いることにより、アポトーシスからすり抜けた癌細胞を再度分化させてアポトーシスに導くという発癌予防の戦略を考えていく上で極めて重要と思われる。
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