本研究では、RB経路の破綻が肝発癌過程に及ぼす影響について検討した。 各分化度の肝癌組織において、RB経路の分子としてRB、p16^<INK4A>、サイクリンD1の異常を解析した。解析は、従来種々のヒト腫瘍において用いられ、異常が報告されている方法に従った。すなわち、RB遺伝子は組織化学染色による発現低下の検出、p16^<INK4A>遺伝子はPCRを用いた欠失やPCR-SSCPによる突然変異およびPCRを用いたプロモーター領域のメチル化、免疫沈降、ウエスタンブロティングによる発現低下の検出、サイクリンD1は組織化学染色による過剰発現の検出を試みた。 RB蛋白の発現低下は40%の肝癌で認められ、その頻度は腫瘍のステージや分化度とは相関しない。p16^<INK4A>遺伝子の欠失や点突然変異は稀であるが、プロモーターのメチル化は47%に認められ、又蛋白レベルで検討しえた症例ではp16^<INK4A>蛋白発現の低下を伴う。またp16^<INK4A>遺伝子プロモーターのメチル化の頻度も腫瘍のステージや分化度とは相関しない。サイクリンD1に関しては遺伝子増幅や過剰発現は進行症例に多い傾向があるが、異常の頻度は少ない(11%)。 ヒト肝発癌において、サイクリンD1遺伝子異常は従来よりの報告どうり、その進展に影響を与える可能性が考えられる。一方、肝癌においてRB、p16^<INK4A>はプロモーターのメチル化や蛋白発現の異常などとして認められることが多く、比較的早期の肝癌より認められる。すなわち、RB、p16^<INK4A>異常にサイクリンD1の異常が加わり、より進展した腫瘍になることも推測できる。またp16^<INK4A>遺伝子プロモーターのメチル化は検討しえた範囲ではp16^<INK4A>蛋白発現の低下を伴い、肝癌におけるp16^<INK4A>遺伝子不活化の主要な機構であると考えられる。
|