癌抑制遺伝子産物RBおよびその関連分子は細胞周期制御に重要な経路に関わり、その異常は多種類の腫瘍の発生に関わることが報告されている。本研究では肝発癌におけるRB経路の破綻の意義を検討するため、各分化度のヒト肝癌を用いてRB経路分子の異常を包括的に解析し、さらにp53経路分子の異常の解析を加え、RB、p53経路異常の関連性も検討した。 解析法は、RB蛋白発現には免疫染色、サイクリンD1遺伝子異常・発現にサザンブロッティングおよび免疫染色、p16遺伝子異常・発現異常にはメチル化特異的PCR、PCR-SSCP、PCRを用いた欠失の解析、ウエスタンブロッティングを施行した。また同一症例において、p53遺伝子異常・発現異常をPCR-SSCP、免疫組織化学染色を用い、またARF遺伝子異常をメチル化特異的PCR、PCR-SSCP、PCRを用いた欠失の解析、発現をTaq-Man PCRを用いて解析した。サイクリンD1発現は高〜中分化肝癌に移行する過程で頻度が増える傾向が認められたが、RB、p16発現異常の頻度と分化度には関連は認められなかった。さらにRB経路分子のいずれかに発現異常が認められる症例は高分化肝癌にも高頻度であった。一方、p53遺伝子・発現異常は、高〜中分化肝癌に移行する過程で頻度が増加した。ARF遺伝子点突然変異及び発現消失・欠失は7%に認められたがメチル化異常は認められなかった。さらにRB経路・p53経路異常の間に相関は認められなかった。RB経路異常が認められる肝癌とその異常が認められない肝癌症例の間で、肝癌治癒切除後の転移再発のリスクを検討するため、各症例を追跡調査し各種の腫瘍側因子を共変量して多変量解析を用いて検討したが、両群間に明らかな差は認められず、RB経路異常は肝発癌の進展期ではなく比較的早期に関わるという結論を支持する結果となった。
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