肝細胞癌の大半は肝硬変(線維肝)を母地として発生し、この肝線維化の主細胞は星(伊東)細胞であることが知られている。近年この活性化星細胞には、コラーゲン合成以外に、HGFを初めとする増殖促進因子やTGF-βなどの増殖抑制因子の産生や、コラーゲンを分解し癌細胞の転移に関連するMetalloproteinase(MMP)群を産生することが明らかにされている。また、肝細胞癌の中には皮膜で被われたものが存在し、皮膜の形成にも活性化星細胞が主役であることが報告されている。本年度の研究では以下のことが明らかになった。(1)ラットにブタ血清を週2回投与すると8週後には、肝線維化が誘導され肝組織にはTGF-βが発現される。このTGF-βが発現した肝を70%部分肝切除を行うと、正常肝にくらべ有意に肝再生が抑制される。(2)活性化星細胞により形成された肝硬変をへて前癌性病変(酵素変異細胞)-肝発癌に至るラットコリン欠乏食においては、TGF-βが強発現しているが、前癌性病変の細胞は、周囲の肝細胞に比べて再生(増殖)抑制されていない。また、これらの前癌性病変の多くは、活性化星細胞によりとりかこまれている。活性化星細胞がTGF-β産生の主細胞と考えられる。以上の結果より、前癌性病変の細胞はすでにこの時点においてTGF-βの細胞増殖抑制作用から逸脱しているものと考えられる。
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