当該研究期間で明らかになった点は下記のごとくである。 (1)コリン欠乏アミノ酸置換食をラットに投与すると、肝細胞壊死-再生が発生し、これによって伊東(星)細胞の活性化が起こり、線維化が生じ、これら線維化隔壁で囲まれた前癌性病変が出現する。これに、線維化抑制剤(プロリルハイドロキシラーゼ阻害剤など)を投与すると、肝細胞壊死は抑制されずに、伊東(星)細胞の活性化が抑制され、線維化とともに前癌性病変の出現が減少する。 (2)コリン欠乏アミノ酸置換食をラットに投与している状態では、肝細胞壊死-再生が持続しており、Kupffer細胞や活性化した伊東細胞がTGF-beta1を活発に産生し、ますます線維化が進行する。正常肝細胞は、TGF-beta1により再生が抑制され再生が起こりにくい状態となるが、これら前癌性病変の細胞集団は、すでにTGF-beta1の増殖抑制機構から逸脱していることが判明した。 (3)肝癌細胞の培養上清を、伊東細胞に添加するとERK/SAPK/P38のMAPKカスケードが活性化され逆に、伊東細胞の培養上清を肝癌細胞に添加しても、細胞周期には変化を認めなかった。さらに、肝癌細胞と伊東細胞を共培養すると、伊東細胞が癌細胞に向かって遊走することが判明した。これらより、伊東細胞は少なくとも、その産生する増殖因子で癌細胞を増殖する可能性は低く、癌細胞周囲に線維化を作りだし、癌細胞の更なる増殖浸潤を食い止めるため、癌細胞に向かって遊走するのかは、現時点では不明であり今後の検討が必要である。 (4)アデノウイルスを使用したMAPKカスケード活性化実験では、マトリックスメタロプロテイナーゼの中で、MMP-9は主にERK経路でコントロールされているのに対して、MMP-13はP38経路で制御されており、両者は異なる経路で支配されていることが判明した。 この結果は、線維化溶解(治療)に新しい視点をもたらすばかりではなく、癌細胞の転移のメカニズム解明に寄与し、その予防に治療にも役立つと考える。
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