Helicobacter pylori(H.phlori)と胃粘膜表層粘液産生細胞との相互作用の分子機構を明らかにすることは、胃炎・胃潰瘍ならびに胃癌の原因を理解する上で極めて重要である。本年度は、この相互作用を媒介するシグナル分子を検索し、胃粘膜粘液細胞は、活性酵素スーパーオキシド・アニオンを自発的に産生しその産生量は活性化マクロファージを凌ぐほど多量である、という胃粘膜粘液細胞のもつ新たな機能を見出した。さらに、スーパーオキシド・アニオンの産生系およびその生理的役割について検討し、以下に示す結果を得た。 1.胃粘膜粘液細胞に発現するスーパーオキシド・アニオン産生系は、貪食細胞のNADPHオキシダーゼと酷似するが、その活性制御機構は異なること。 2.H.pylori生菌、培養上清、およびリポポリサッカリドによりスーパーオキシド・アニオンの産生は飛躍的に増大すること。 3.H.pyloriリポポリサッカリドによるスーパーオキシド・アニオンの産生増大は、NADPHオキシダーゼの誘導を介して起こること。 4.H.pylori感染に伴い産生が増大したスーパーオキシド・アニオンはオートクリン・パラクリン的に胃粘膜粘液細胞に作用して、転写因子NF-κBの持続的な活性化を誘導すること。 今後は、胃粘液細胞のNADPHのオキシダーゼを構成する因子の分子レベルでの同定とH.pyloriによるNADPHオキシダーゼ活性化のin vivoでの検討を行う予定である。
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