慢性肝炎とこれに伴う肝線維化の正確な診断や進展の程度の評価は、肝生検で行われることからも分かるように「炎症」や「繊維化」は基本的には病理形態学的な概念である。我々はヒト、ラット、マウスのin vivoの材料を形態学的に観察し、肝臓でこのようなDisse spaceの変化と線維化を惹起する細胞は筋線維芽細胞様に形質転換した伊東細胞であり、ヒトとマウスでは形質転換の指標としてα-平滑筋アクチンが極めて有用であることを明らかにしてきた。臨床的にも、肝臓の線維化の進展、ことにその終末像としての肝硬変では肝不全や肝細胞癌、食道静脈瘤、感染症などの合併症が直ちに生命予後に影響を及ぼすため、慢性肝疾患の治療では肝硬変への移行の防止、即ち肝線維化の抑制が極めて重要である。 伊東細胞はエンドセリンなどに反応して肝類洞血流の制御を行っている。肝臓の線維化を伴う患者では血中エンドセリン値が高値を示すことから、類洞血流の減少を介して、肝細胞虚血が生じる可能性がある。しかし、近年、筋線維芽細胞様に形質転換した伊東細胞がnitric oxide(NO)を産生して、肝細胞傷害を防いでいることが明らかになった。我々は伊東細胞上のアルギニン移送系を明らかにしているのでこれを足場に、今回、筋線維芽細胞様伊東細胞に誘導されるNO産生関連遺伝子のクローニングを行い、数種の未知の遺伝子を得た。近年、この領域の遺伝子研究は急激に進展しており、今回の検討はエンドセリンによる肝細胞虚血を回避する機構の一端を解明しようとする試みで、NOの基質であるアルギニンによる肝血流改善という新しい治療法を視野に入れた研究であり、今後の発展が期待される。
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