肝癌は極めて腫瘍血管増生に富む腫瘍であり、このことを利用した肝動脈塞栓療法が広く行われているが、その成績は必ずしも満足し得るものではない。本研究では、強力な内因性血管新生阻害因子であるアンギオスタチン遺伝子を肝癌細胞に導入し、腫瘍増殖あるいは転移に対する抑制効果を検討した。ヒト肝癌培養細胞HepG2から、ヒトプラスミノーゲンcDNAをPCRを用い増幅後、Kringle domain(K1-K4)に相応する部位を切り出し、発現ベクターに挿入し、目的とするプラスミドをクローニングした。さらに、アンギオスタチンを分泌型にする目的で、K1-4に加えsecretory signal sequence(SS)及びpreactivation peptide(PA)を含むプラスミドを作成し、アデノウイルスベクター(AV-S-K1-4)に組み込んだ。得られたアンギオスタチン発現プラスミド(pRC-S-K1-4)とNeo耐性遺伝子発現ベクター(PSV-Neo)を肝癌培養細胞(HuH7/HepG2)にco-transfectionし、G418 selectionによりstableにアンギオスタチンを発現する細胞株のクローン化を試みた。しかし、アンギオスタチンの発現量が乏しかったため、AV-S-K1-4を直接肝癌培養細胞に感染させ、Western blottingあるいはNorthern blottingによりアンギオスタチンの発現を確認後、細胞増殖等について親株細胞と比較した。その結果、AV-S-K1-4導入肝癌培養細胞の増殖能は親株細胞と変わりなかった。一方、ダブルチャンバーを用い、肝癌培養細胞培養上清の血管内皮(牛毛細血管内皮)増殖に及ぼす影響を検討したところ、AV-S-K1-4の肝癌培養細胞への導入は、血管内皮細胞の増殖を明らかに抑制した。しかし、アポトーシスの誘導は明らかにできなかった。動物実験ではヌードマウス皮下に親株細胞を移植後、AV-S-K1-4を皮下腫瘍に直接注入し腫瘍増殖について検討したところ、腫瘍増殖は一過性に抑制された。
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