MAdCAM-1(mucosal adressin cell adhesion molecule-1)は腸管リンパ組織のHEV(high endothelial venule)に発現し、2つの免疫グロブリン(Ig)ドメインとムチンドメインを有する小分子である。リンパ球、とくにメモリーT細胞表面のインテグリンα4β7とIgドメインとが結合し、これらリンパ球のホーミングにきわめて重要な役割を演じている。最近、ヒト炎症性腸疾患においても炎症局所の血管内皮での発現が亢進していることが明らかにされ、治療標的分子として注目されるが未だに十分な検討はなされていない。 本研究ではTNBSマウス大腸炎モデルにおけるMAdCAM-1アンチセンス療法の有効性を検討し以下の結果を得た。1)アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASと略)の腹腔内投与によってTNBS大腸炎は抑制され、体重減少の有意な抑制、死亡率の有意な低下、および組織学的炎症スコアの改善を認めた。2)炎症腸管局所におけるMAdCAM-1 mRNAおよび蛋白の発現レベルは、AS投与マウスにおいて有意に低下した。3)炎症腸管局所におけるCD4+T細胞およびβ7+細胞数の有意な低下を認めた。4)FITC標識ASを用いて、炎症局所への高率な取り込みを確認した。 ASの安全性は既に他の遺伝子に関するいくつかの臨床試験を通じて明らかにされており、今回の結果はMAdCAM-1ASの第1相臨床試験のための基礎データとなるものと考えられた。
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