1.本年度までに、本邦自己免疫性肝炎(AIH)28症例においてセレノシステイン(Sec)-tRNAに直接結合する自己抗体を検索し、3種類(NM抗体、EW抗体、S4M抗体)を同定した。これまで調べた他の肝疾患には本抗体は見つかっておらず、AIHに特異的である可能性が高い。NM抗体とEW抗体はSec-tRNAの異なる部位を認識する抗体であり、特に前者はtRNAの高次構造を認識する。一方S4M抗体はSec-tRNAだけではなく、2種のセリンtRNAやロイシンtRNAにも反応することを明らかにした。また患者の追跡が可能なNM抗体について引き続き経過観察を行ったが、抗体価などには経時的変化は認められなかった。 2.ヒトSec-tRNAは4か所しか修飾ヌクレオチドがなく、修飾の有無が抗体との反応性に関与している可能性があるため、Sec-tRNA変異体を作製して解析を行った(ソウル大学Lee教授らとの共同研究)。その結果、アンチコドン1文字目(34位)のリボースのO-メチル化がtRNAの高次構造を認識するNM抗体との反応性とよく相関するが、Dループの部分構造を認識するEW抗体との反応性や、tRNAのアミノアシル化能とは相関しないことを明らかにした。これらの性質を利用して、Sec-tRNAのヌクレオチド修飾の順序を示すことができた。 3.Sec-tRNAをFreundアジュバントとともにBALB/cマウスの皮内に注射して免疫を試みたが、血清中の抗Sec-tRNA抗体値の上昇は現在まで認められておらず、引き続き他の免疫方法を試みる予定である。
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