肝細胞癌の増殖制御機構を解明することは癌の病態を理解し、治療に直結する可能性もあるので重要である。TGF-βはある種の細胞には増殖を刺激するように作用するが、多くの上皮系の細胞では細胞増殖が抑制される。継代肝癌細胞株HepG2を使用してTGF-βの作用を検討した。0.1%血清存在下でTGF-βを添加し経時的に細胞数と細胞周期をFACSを用いて検討した。この条件では細胞増殖がやや抑制されるが、細胞死は起こらない。一方初代肝細胞ではTGF-βによって細胞はアポトーシスにより死滅することが知られている。どんな分子機構がHepG2細胞でTGF-βによる細胞死を免れさせているのか検討するために、種々の情報伝達系を特異的に抑制する薬剤を使用した。MAPK系を抑制するPD98059とPI3K系を抑制するLY294002をそれぞれ異なる濃度で、TGF-βを添加する1時間前に前投与すると、それぞれ濃度依存性に細胞数は減少しFACSではsubG1の細胞数が増加していた。これはHepG2細胞では既にMAPK系とPI3K系とが活性化されており、これらによりアポトーシスが抑制されていることを示すと考えられた。現在これらの生存シグナルの上流に位置する分子の同定に取りかかっている。 HepG2細胞では肝細胞増殖因子により細胞周期停止が生ずるが、この時にはCDK抑制分子であるp27kip1蛋白質の増加とCDK2/cycEへの結合の割合が増加していることを既に報告した。現在、肝細胞増殖因子からp27kip1に至る情報伝達系の解明のために、p27kip1の細胞内局在を検討しているところである。
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