研究概要 |
肝細胞及び肝癌細胞の増殖制御機備についてはまだまだ未解明な点が多く、細胞外からの刺激や細胞内シグナル伝達系の重要な分子についての、特に相互作用に関する研究は不十分である。腫瘍増殖因子(以下TGF-b)は上皮細胞では細胞増殖に抑制的に作用するが、特に肝細胞や肝癌細胞に対してはアポトーシスを誘導する。我々はHuh2、Huh7、Hep3B、HepG2の4つの継代肝癌細胞株を用いてこれらに対するTGF-bの細胞増殖抑制乍用を検討したところ、Huh2、Huh7、Hep3Bではアポトーシスが誘導され、HepG2ではG1期での細胞周期停止がみられた。また肝細胞増殖因子(HGF)投与によりHepG2では同様にG1期停止が観察された。Huh2、Huh7、Hep3BのアポトーシスはHGF、上皮増殖因子(EGF)の前投与により回避されたが、FACSによる解析で細胞は増殖せずG1期で停止していることが判明した。さらにHGFやEGFの前にERK阻害剤のPD098059やAkt阻害剤であるLY294002を投与しておくとアポトーシスが再度誘導された。またHepG2細胞をLY294002、PD098059で前処理した後TGF-bを添加するとやはりアポトーシスが生じた。これらの結果はTGF-bによるアポトーシス誘導は肝癌細胞では一般的な現象であり、HepG2細胞においても恒常的に活性化しているERKやAkt経路を遮断してやると同様にアポトーシスを誘導できた。さらにアポトーシスを回避するにはERK, Aktの両者の活性化が必要であり、しかもこの時細胞がG1期で細胞周期停止を来たしていることを考えるとTGF-bは通常アポトーシスとG1期での細胞周期停止により細胞増殖を抑制していることが判明した。
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