研究概要 |
B型肝炎ウイルスに健常成人が一過性感染した場合、従来考えられていたのと異なり、ウイルスは完全に体内から排除されるのではなく、微量のウイルス血症が長期にわたり持続する。従って感染既往例であっても血液中に微量のウイルスゲノムが検出される可能性がある。この点に関してHBs抗原陰性(RPHA法)・HBc抗体陽性(HI法32倍以上)の例を対象に検討した。対象50例中19例(38%)でHBV-DNAが検出された。HBV-DNA陽性例19例について検出パタンを見たところ、(1)上清分画陽性/免疫複合体分画陽性 5例。(2)上清分画陽性/免疫複合体分画陰性 3例。(3)上清分画陰性/免疫複合体分画陽性 11例。であった。また、血清HBV-DNAのレベルを上清/免疫複合体の分画に分けて検討したところ、いずれの例でもHBV-DNAのレベルは急性肝炎回復期と同様のレベルであった。また、DNase I消化後もHBV-DNAのレベルに変化は見られなかった。PreS-S領域のアミノ酸配列はサブタイプadwの3例、サブタイプadrの3例で決定可能であった。いずれの例もコンセンサス配列と異なるアミノ酸配列を有していたが、共通の変異は認めなかった。また、HBs抗原の抗原性に影響を与える可能性のあるMHR(Major Hy drophobic Region)には変異は認められなかった。従って微量に残存するウイルスの一部には感染性のある分画が含まれており、血液製剤への利用は好ましくないと考えられた。これら微量のウイルスの肝発癌に及ぼす影響をHCV関連肝癌、non-B,non-C肝癌について検討したが、関与は大きくないことが推定された。ただし、non-B,non-C肝癌に関してはウイルス遺伝子に変異のあるウイルスゲノムが高率に検出され、献血者と異なる構造を有するHBVの関与が疑われた。
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