研究概要 |
I. HCV高感染地区における口腔粘膜疾患の疫学調査 【目的】我々は,以前にHCV高感染地区(H町)の住民685名を対象に口腔粘膜病変の疫学調査を行なった。今回は6年経過後の同住民について,無作為抽出法による口腔粘膜疾患の再調査を行なうと共に,肝外病変の有無をアンケート調査した。【対象と方法】H町住民190名を対象に,口腔粘膜病変並びに肝外病変の疫学調査を行なった。また対象者全員のHCV抗体並びに血清HCV RNAを調査した。【結果】口腔扁平苔癬(OLP)は6.3%に認められ(12/190人),HCV抗体陽性率は21.1%(40/190人),HCV RNA陽性率は16.3%(31/190人)であった。HCV RNA陽性者におけるOLPの発現率は16.1%,HCV RNA陰性者でのOLPの発現率は4.7%であった。つまりOLPの発現率は,HCV RNA陽性者において有意に高率であった(P<0.05)。前回(6年前)と今回の調査を共に受診したOLP住民は不変であった。なおOLP以外の肝外病変として,甲状腺機能異常,関節リウマチ,高血圧,心疾患,糖尿病のいづれの肝外病変もHCV感染者での合併率が高く,甲状腺機能異常と関節リウマチについては有意に高率であった。【結論】HCV高感染地域では肝外病変も高率に存在するため,HCV感染者の診察に際しては,肝外病変の存在にも十分注意を払う必要がある。 II. 口腔扁平苔癬とHCV感染における病理組織学的並びに免疫組織学的検討 【目的】我々は,HCV感染の有無によってOLP組織に病理組織学的な差異があるか否かの検討を行った。【対象と方法】HCV関連肝疾患並びにOLPを有する31例の患者とHCV感染も肝障害も見られなかったOLP10例に対し,病理組織学的な検討を行った。検討項目は,(a)角化亢進;過角化,錯角化(b)上皮層の肥厚(c)ケラトヒアリン顆粒層の肥厚(d)基底細胞層の障害(e)リンパ球浸潤;粘膜上皮内,粘膜上皮下(f)上皮脚の鋸歯状化(g)好中球の浸潤の有無(h)好酸球の浸潤の有無(i)出血(j)血管壁の好中球浸潤(k)白血球破壊に基づく核塵の有無(l)内皮細胞の腫大(m)フィブリン沈着についてである。各項目の判定は,(-),(+),(++),(+++)の4段階判定を行った。またHCV感染のあるOLP組織とHCV感染のない組織を用いて,免疫組織染色を行ない,病変局所のT cellとB cellの浸潤リンパ球のサブセットについて比較検討した。さらに,OLPを有するHCV関連肝疾患6名から得た肝生検組織について,肝の線維化と炎症の程度を評価し,OLP組織と何らかの関連性があるか否かの検討を行った。【結果並びに結論】HCV感染の有無によって,OLPの特異的な病理組織学的な特徴や浸潤リンパ球に占めるT cell,B cellの割合などに違いは認められなかった。また肝の線維化及び炎症の程度とOLPのリンパ球浸潤の程度の間にも一定の関連性は認められなかった。
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