平成11年度は、種々の肝癌細胞株について以下の検討をおこなった。1)COX-2蛋白およびmRNA発現の検討、2)NS398(選択的COX-2 inhibitor)による増殖抑制、3)培養上清中のPGE2測定、4)NS398によるアポトーシス誘導、5)培養上清中のVEGF量の評価と、NS398によるVEGF産生量の変化。 その結果、RT-PCRではCOX-2mRNAの発現を認めたが、Western blotではCOX-2蛋白の発現は認められなかった。しかし、間接蛍光抗体法(共焦点レーザー顕微鏡で観察)により、主として粗面小胞体に局在するCOX-2蛋白を検出した。NS398による肝癌細胞の増殖抑制を濃度依存性に認めたが、培養上清中のPGE2は変化しなかった。従って、NS398にはCOX-2活性に依存しない増殖抑制のメカニズムがあると考えられた。ごく最近、NSAIDは核内レセプターの一種であるPPARのリガンドになりうるとの報告がなされた。NS398が示した増殖抑制効果は、PPAR経由ではないかと考えられる。また、アポトーシスに関しては、NS398の添加により、核内DNAの断片化およびcaspase3の活性化は認められず、アポトーシス誘導はおこらなかったと結論した。一方、肝癌細胞が分泌するVEGFは、NS398により有意な産生の抑制を受けなかった。低酸素状態にしVEGFの産生を刺激した状態でNS398を添加しても、VEGFの産生量には変化を認めなかった。その理由として、1)肝癌細胞ではCOX-2の発現量がもともと少ないため、COX-2活性をNS398で抑制してもVEGFの変化に有意な差が出ない、2)大腸癌などと異なり肝癌では、VEGFの産生はCOX-2によりregulateされていないことが考えられた。
|