研究概要 |
平成12年度の研究においては、主としてPPARγリガンドによる肝癌細胞の増殖抑制機序の解明をおこなった。その理由として平成11年度の報告書で述べたように、肝癌細胞ではCOX-2阻害剤(NS398)による有意なアポトーシスおよびVEGF産生抑制効果を認めなかったためである。しかしながら、NS398は肝癌細胞の増殖を有意に抑制した。さらに本研究遂行中、NS398が核内リセプターPPARγのリガンドになりうることが示されたため(J Biol Chem,1999)、PPARγリガンド(troglitazone)による肝癌細胞の増殖抑制に焦点を当て、研究を継続した。 まずFlow Cytometryにより、troglitazoneは肝癌細胞にG1 arrestを誘導することを明らかにした。G1 arrestが誘導された細胞株では、種々の細胞周期制御蛋白のうち、p21の発現増強を認めた。p21はmRNAレベルでも発現が増強していた。さらにp21発現増強に引き続くCDK2の活性低下とpRbの低リン酸化も認めた。しかし、pRb-deficient細胞でもG1 arrestを認めたことから、troglitazoneによるG1 arrestは必ずしもpRbの低リン酸化を介さないことが示唆された。また、興味深いことにpRb-deficient細胞ではp27の細胞内蓄積を認めた。troglitazone処理された肝癌細胞の超微形態学的検討では、ミトコンドリア内にelectron dense bodyを認めたが、明らかなアポトーシスの所見は見られなかった。血管新生因子VEGFの産生についても検討したが、mRNAレベルでは減少していたものの(DNA microarrayによる検討)、培養上清中のVEGF濃度は上昇しており(高感度ELISA;東亜合成)、VEGFの分解抑制による上昇が考えられた。
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