本研究は、マウスの喘息モデルを用いて、気道粘膜に内在する新しい免疫調節の機構の解析を目的とする。感作されたマウスの気道に抗原を注入すると、喘息の特徴である気道内好酸球性炎症が誘発された。ところが、とても興味深いことに、気道に注入する抗原量を多くすると逆に気道好酸球炎症は減弱した。この気道好酸球抑制は、BAL中のTh2サイトカインIL-4とIL-5の抑制を伴った。次に、高用量の経気道的抗原投与を受けたマウスの縦隔リンパ節を喘息モデルマウスに移入したところ、同様に気道の好酸球浸潤が抑制され、高用量OVAの経気道投与によって、気道の好酸球性炎症を抑制する細胞が誘導されることがわかった。抑制性細胞は、CD4陽性T細胞であり、抗原特異的に働いた。この抑制は、抗IFN-γ抗体を同時に投与することによって回復できず、Th1細胞によるTh2反応の抑制によるものではない。しかし、抗TGF-β抗体の同時投与によって抑制効果が中和された。また、高用量抗原投与を受けたマウスの縦隔リンパ節細胞からは、抗原の存在下でTGF-βの産生が確認された。以上より、気道は高用量の抗原曝露に対して強い炎症反応を起こすのではなく、逆にTh2細胞の免疫寛容を誘導して、体を障害する強度の炎症を回避していることがわかった。さらに、この免疫応答統御を担っているのは、従来知られていなかった気道に内在するCD4陽性のTGF-β産生細胞であることがわかった。TGF-βを産生する、気道系に内在する免疫炎症調節細胞を効率よく活性化することは、今後の気道炎症の抑制と気管支喘息の加療という観点から鑑みて、重要な知見であると考える。
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