研究概要 |
これまでに(1)人特発性肺線維症肺の肺胞毛細血管密度は早期病変では高く、線維化が亢進した病変においてはむしろ正常よりも減少する2相性の変化をしめすこと、(2)早期病変に増加する毛細血管はアンジオテンシン変換酵素が高産生されていること、(3)ブレオマイシン肺モデルに対してアンジオテンシンIII型受容体拮抗薬losartanを持続投与することによって肺の線維化が抑制されることを示してきた。早期肺病変が線維化形成を亢進している可能性を検証する為に、マウス・ブレオマイシン肺モデルに対して新生血管抑制剤であるTNP470と血流阻害剤の効果が示されているAC7700の影響をみた。TNP470投与群をBLM投与開始後の初期(第5-11日)、中期(第5-11日)、後期(第5-11日)の3群にわけ、それぞれTNP470(30mg/kg)を1日おきに4回投与した。その結果TNP470を初期投与されたマウス群(n=10)の40%は第9日目に死亡。第28日目までにさらに3匹死亡し、70%の死亡率であった。この第28日までの死亡率は、中期投与群での20%、後期投与群では40%、およびTNPを含まない溶液を注入した群の33.3%と比較すると有意に高い。肺内のコラーゲン量で比較すると、中期でTNP470を投与したBLM群はBLMのみ投与した群より乾燥肺重量あたりのハイドロキシブロリンが統計学的に増量していた(169.2±5.8%vs.150±3.3%,p=0.024)。同様のマウス・ブレオマイシン肺モデルに対し、血流阻害剤AC7700を5mg/kg/day投与群と20mg/kg/day投与群の2群に分け、BLM投与開始後2日目から隔日に6回皮下投与をおこなった。その結果、TNP470の前期投与群と同様に著しい体重減少が始まり、第9日目ではBLM単独投与群よりも統計的な有意差をもって低値となった(p<0.05)。5mg/kg/day投与群と20mg/kg/day投与群の間に差は認めなかった。第21日目の乾燥肺重量あたりのハイドロキシプロリンはAC7700(5mg/kg/day)投与群がBLM単独投与群より多くなる傾向を示した。これらの結果は肺の炎症から線維化における肺胞毛細血管変化の複合的な重要性を示し、今後の特発性肺線維症肺に対する治療戦略の基盤となる。
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