研究概要 |
本研究は,マウス肺癌細胞Lewis lung carcinoma(LLC)にヒトIL-1β遺伝子を導入し,in vivoにおける腫瘍増殖への影響を,炎症および腫瘍-間質相互作用の観点から解析し,以下の諸点を明らかにした。 (1) ヒトIL-1β遺伝子を導入したルイス肺癌細胞(LLC/IL-1β)は,in vitroでは増殖が変化しないにも関わらず,in vivoにおいて急速な腫瘍の増大を来した。組織学的検討で,顆粒球や単球の著明な浸潤と,豊富な新生血管が観察された。 (2) LLC/IL-1β細胞からVEGFやMIP-2が過剰に分泌され,一方間質細胞からHGFといった血管新生誘導因子を過剰分泌させることが判明した。このことより,新生血管誘導因子の過剰分泌により腫瘍組織の急速な増大を来したと考えられた。 (3) さらに,LLC/IL-1β腫瘍に抗血管新生物質であるTNP-470を投与することにより,腫瘍の増大を阻害することができた。 この系は,腫瘍細胞が宿主細胞へ働きかけ,腫瘍組織形成にいかに関与するかのモデルとして興味が持たれる。これら腫瘍・宿主組織応答の解析とこれに関与する物質の標的とした治療法の開発は,従来の腫瘍細胞を標的とする癌治療とは別の理念に基づいた治療法の開発に可能性を開くものである。
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