肺癌におけるhnRNPA2/B1蛋白の発現の生物学的意義を明らかにし、その臨床応用に向けての基礎を築くことを目的として以下の研究をおこなった。 (1)11年度に作成した抗A2抗体4G3を含む三種類の抗hnRNPA2/B1抗体を用いて、免疫染色およびWestern blotting行った。各組織型の肺癌および消化管の癌の培養細胞、さらに手術組織標本を対象として検討した結果、A2/B1蛋白の過剰発現は肺癌に特異的ではなく、他臓器由来の癌細胞においても認められることを明らかにした。従ってA2/B1蛋白の過剰発現は癌に見られる普遍的な現象と考えらえた。 (2)A2/B1蛋白の発現と細胞周期との関連 HeLa細胞を同調培養し、A2/B1蛋白の細胞周期による変化を、定量的に解析した。A2/B1は主にG1期に転写され蛋白合成される。A2蛋白は細胞周期を等してほぼ一定値が維持されるが、B1蛋白はG2とM期に減少することを明らかにした。この細胞周期における代謝の差は、両蛋白の機能の違いを示唆するものと考えられた。 (3)A2/B1蛋白とテロメアDNAとの関連 A2蛋白に比べ、B1蛋白、そのマイナーアイソフォームのB0b蛋白は、テロメアの1本鎖DNAと高い親和性を示し、テロメア配列と動的に結合することを明らかにした。B1・B0b蛋白はDNA分解酵素からテロメアを保護し、テロメラーゼによるテロメア伸長反応を亢進させる機能を有することを明らかにした。 (4)B0b過剰発現トランスジェニックマウス A2/B1蛋白のアイソフォームであるB0b蛋白を過剰発現するトランスジェニックマウスを作成し、表現型の検討をおこなった。気管支上皮を含む呼吸器系には、腫瘍形成などの変化は見られなかった。同マウスは雄の妊孕性が低下すことから、精子形成とテロメア構造および機能との関連について、今後研究を発展させる予定である。
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