本科学研究費補助金助成による基礎的および前臨床的研究から得られた研究成果から、慢性炎症性肺疾患、特に特発性間質性肺炎におけるブラジキニンB1受容体の重要性が示唆された。すなわち、種々の刺激や炎症によるカリクレイン・キニン系活性化と炎症性サイトカイン産生亢進は、ブラジキニンの産生亢進とB1受容体新規発現を誘導する。ブラジキニンの代謝過程でDes-Arg^9-BradykininやDes-Arg^<10>-Kallidinを生じ、これらはB1受容体に作動し種々の生物学的活性を発揮する。これまでに本研究で明らかにし得た成果としては、1)定量的real time RT-PCR法を用いB1受容体遺伝子を定量検討した結果、大変興味あることに、特発性間質性肺炎患者肺組織中のB1受容体遺伝子発現は対照者の健常部肺組織のそれに比し減弱していた。2)特発性間質性肺炎においてその役割が重要と考えられている線維芽細胞の培養細胞株IMR-90(本細胞は無刺激でもB1受容体を発現し、炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-1β刺激によりさらにその発現が亢進する)を用いて得られた知見より、B1受容体単独刺激は、細胞外マトリックスのフィブロネクチン産生を亢進するものの、IL-1β前処置下ではDes-Arg^<10>-Kallidin刺激した場合、逆にフィブロネクチンの産生が減弱し、この作用はCOX-1/COX-2阻害剤のインドメサシンやCOX-2阻害剤のNS-398により解除されることが明らかとなった。このことは、間質性肺炎におけるB1受容体の抑制的作用の可能性を示唆するものである。近年、B1受容体遺伝子プロモーター領域遺伝子多型と腎硬化性疾患との関連が報告されており、特発性間質性肺炎とB1受容体遺伝子プロモーター領域遺伝子多型との関連も推察され、今後、研究の重要なテーマと考えられる。
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