悪性胸膜中皮種を対象とした遺伝子治療を行ううえで、腫瘍特異的プロモーターを応用することを目的に以下の研究を行った.ヒト悪性胸膜中皮種細胞株(H28、H2052、211H)、子宮頚癌細胞株(Hela)を培養し用いた.Keratin19の発現をNorthern blot analysisで検討したところ、H28、H2052、Helaにおいて発現を認めた.次にKeratin19のプロモーター領域(260bp)にエンハンサー領域(80bp)を連結した上でルシフェラーゼ用レポーティングベクターにサブクローニングし(pGL3-K19)、ポジティブコントロールとしてSV40プロモーターを含むpGL3-Controlを用意した.ヒト悪性胸膜中皮種細胞株を含む各細胞株に、リポフェクション法により遺伝子導入を行いルシフェラーゼ活性を測定し、また導入の効率を補正するためにpSV-b-galactosidaseを同時に導入した.Keratin19を発現する悪性胸膜中皮種細胞(H28、H2052)においては、pGL3-K19を導入後比較的強い(pGL-Controlの数10%)ルシフェラーゼ活性を示したのに対して、Keratin19を発現しない細胞(211H)においてはきわめて弱いルシフェラーゼ活性のみを認めた.同様の検討を悪性胸膜中皮種に特異的に発現するとされるCa結合タンパクであるCalretininのプロモーターを用いて行った.Calretininの発現はRT-PCR法により確認したが、H2052、211Hにおいてその発現を認めた.CALのプロモーター領域のうち転写開始点より上流2.2kbをルシフェラーゼ用レポーティングベクターにサブクローニングし、各細胞に遺伝子導入後ルシフェラーゼ活性を測定したところ、CALを発現する細胞(H2052、211H)において比較的比較的強い(pGL3-Controlの数10%)ルシフェラーゼ活性を示した.以上の検討によりKeratin19とcalretininのプロモーターが悪性胸膜中皮種において腫瘍特異的プロモーターとして応用できる可能性が示された.現在、これらのプロモーターの下流にHerpes simplex virus thymidine kinase(TK)遺伝子を結合した発現ベクターを作製中であり、今後Ganciclovir(GCV)による抗腫瘍効果について検討する予定である.
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