研究概要 |
〔緒言〕肺胞上皮細胞の過形成病変は特発性肺線維症(IPF)の組織学的特徴の一つである。Transforming growth factor(TGF)-βは肺胞上皮細胞に対して増殖を抑制することが知られている。われわれは肺胞上皮細胞の過形成病変はTGF-βへの不応性に起因し、その機序はTGF-βII型受容体(TβRII)変異が肺胞上皮細胞に存在する仮定し、その証明を試みた。 〔方法〕組織学的に通常型間質性肺炎(UIP)と診断されたIPF症例11例のパラフィン固定肺組織から切片を作製し、電動マイクロマニピュレイターを用いたmicrodissection法により標本上の肺胞上皮過形成病変、気道上皮、線維化巣から細胞を回収した。これらの細胞からDNAを抽出してnested PCRを行い、蛍光標識にて遺伝子欠失を確認した。また、一部の検体で抗TβRII抗体による免疫組織染色および塩基配列の決定を行った。 〔結果〕IPFの肺胞上皮過形成病変121箇所中9箇所で、TβRII遺伝子のmicrosatellite部位での欠失があった。一方,気管支上皮細胞や増殖した線維芽細胞,さらに疾患対照としての肺癌の非癌部分に変異を認めなかった。 免疫組織染色では肺胞上皮のTβRII遺伝子の欠失が確認された組織の連続切片において同一部位での染色性の低下が一部確認された。塩基配列の決定によってmicrosatellite部位でのadenineの1塩基対欠失を確認した。 〔まとめ〕IPFの肺胞上皮細胞過形成病変では,一部にTGF-βII型受容体の変異が確認され,これらの細胞ではTGF-βの増殖調節から逸脱している可能性が示唆された。今後、肺胞上皮細胞におけるTβRIIの変異が線維化を促進させる要因かどうかを検討するため、気道上皮細胞株もしくは肺胞上皮細胞株を用いて、変異TβRII遺伝子を強制導入し、TGF-βなどの線維化にかかわるcytokineの変動を確認する。また、組織学的にIPFと異なるNSIPにおいても肺胞上皮過形成と線維化が見られる症例が少なくないため、NSIP症例についても同様の検討を行う。
|