〔緒言〕transforming growth factor(TGF)-βは特発性肺線維症の病態形成において重要な役割を果たしている。昨年までの研究で、TGF-βII型受容体(TβRII)の遺伝子異常、すなわちexon3に存在するmicrosatellite部位における欠失が、特発性肺線維症の肺胞上皮細胞の過形成病変の一部に存在していることを証明した。 本年度は、 (1)特発性肺線維症以外にも線維化をきたす他の組織学的病変についても同様の遺伝子異常が認められるか。 (2)特発性肺線維症には肺癌が高率に合併する。この遺伝子欠失が癌化につながるかどうか。 以上の2点を中心に検討を行った。 〔方法〕(1)特発性肺線維症以外にも線維化をきたす他の組織学的病変として、non-specific interstitial pneumonia(NSIP)の2症例(いずれもGroup3)について検討を加えた。肺胞上皮細胞の過形成病変組織標本上からmicrodissection法によって細胞を抽出し、得られたDNAを鋳型としてnested PCR法を用いて増幅し検出した。 (2)特発性肺線維症に併発した肺癌7症例について、癌細胞におけるTβRII遺伝子のmicrosatellite部位における欠失を、同様の方法で検出した。 〔結果〕(1)NSIP2症例のうち1症例の肺胞上皮過形成病変1ヶ所で同様の変異を確認した。 (2)特発性肺線維症に合併した7症例については、全例TβRII遺伝子のmicrosatellite部位は正常であった。 〔まとめ〕特発性肺線維症の肺胞上皮細胞の過形成病変に認められたTβRII遺伝子の欠失と同様の変異をNSIP(Group3)にも認め、頻度は低いものの、いわゆる肺の線維化をきたす疾患に共通する変異である可能性がある。また、癌化については少なくとも高頻度に関与するものではないと考えられた。
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