transforming growth factor(TGF)-βは特発性肺線維症(IPF)の病態形成において重要な役割を果たしている。IPFの組織学的特徴の一つである肺胞上皮細胞の過形成がTGF-βの制御から逸脱してためではないかと仮定し、その機序の一つとして既に報告のあるTGF-βII型受容体(TβRII)のexon3に存在するmicrosatellite部位における欠失の検出を試みた。 IPF患者の組織標本上からmicrodissection法によって細胞を抽出し、得られたDNAを鋳型としてnested PCR法を用いて増幅し検出した。その結果、IPFII症例の肺胞上皮過形成病変121個所の中で5症例9個所において変異を認めた。また壁の肥厚した肺動脈においても一部で変異が確認された。TβRIIに対する免疫組織染色ではTβRII遺伝子の欠失が確認された肺胞上皮の部位で染色性の低下を確認した。 線維化をきたす他の組織学的病変として、non-specific interstitial pneumonia(NSIP)2症例(いずれもGroup3)についても検討を加えたところ、うち1症例の肺胞上皮過形成病変1ヶ所で同様の変異を確認した。 また、IPFには肺癌が高率に合併することが知られている。この遺伝子欠失が癌化につながる可能性を考え、IPFに合併した肺癌7症例について同様に検出を行ったが、全例TβRII遺伝子のmicrosatellite部位は正常であった。 IPFに代表される肺の線維化の際、肺胞上皮細胞過形成の一部の病変については、TGF-βによる上皮細胞の増殖抑制作用から逸脱することによる過形成である可能性が示唆された。また低頻度ではあるが、肺の線維化をきたす疾患に共通する変異である可能性がある。癌化については少なくとも高頻度に関与するものではないと考えられた。
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