研究概要 |
アルツハイマー病(AD)の組織病理学的所見の特徴としてアミロイドβ蛋白(Aβ)の脳内沈着が挙げられる。Aβは神経細胞などの細胞内で産生され,その後細胞外に分泌されることがわかっているが,具体的な細胞内の産生部位は未だに同定されていない。我々はその候補として界面活性剤に不溶性の特殊な膜ドメインであるラフト画分に注目し 同部位がAβの産生に関与している可能性を検討することとした。ラフト画分の分離法は培養細胞では確立しているが,脳をもちいた試料では未開発であることから,まず脳から生化学的に同部位を分離する方法の開発を試みた。凍結アルツハイマー病脳を1%トライトンを含む緩衝液中で粉砕し,ショ糖密度勾配中で超高速遠心分離を行い,全部で5つの画分として回収した。各画分をウエスタンブロット法で検討すると,ラフト画分のマーカー蛋白とされるフロティリン蛋白は,第2画分に局在していた。一方,Aβ40およびAβ42は第2画分と第5画分に存在した。このことから,脳内のAβの少なくとも一部はラフト画分に存在している可能性が高いことがわかった。第5画分はペレット画分であるが,AD脳ではアミロイド線維を形成して細胞外に沈着したAβが多量に存在していることから,第5画分に存在するAβは線維塊を形成したAβである可能性が高いと考えている。興味深いことに両画分ともAβ40よりもAβ42がより多く存在していた。またいずれの画分でも,Aβは4kDのモノマーとしてばかりではなく,約7-8kDのダイマーを形成していた。
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