傍腫瘍性神経症候群では、特徴的な自己抗体から背景腫瘍の早期発見が可能であるが、本症の神経障害に対する自己抗体の関与は明らかではない。一方、申請者のこれまでの研究により、本症候群では罹患組織に多数のCD8陽性T細胞が浸潤していること、Yo抗原あるいはHu抗原を取り込んだ自己の線維芽細胞を標的として患者のCD8陽性T細胞にCTL活性を誘導できることから病態形成に細胞傷害性T細胞(CTL)が関与すると考えられる。その証明には、本症特異的抗原で感作されたT細胞移入による疾患モデルの作成が必須であり、本研究では疾患モデル作成に向けての検討を行った。 抗Yo/Hu抗体陽性傍腫瘍性症候群剖検組織から腫瘍と神経組織を採取し、T細胞レセプター(TCR)Vb領域をコードする遺伝子の各種プライマーを用いてRT-PCRを行い、single strand conformation polymorphism(SSCP)法により腫瘍と神経組織に浸潤するT細胞のVb遺伝子を解析した。Vb13に共通のバンドが見られ、本症罹患組織には限られた抗原ペプチドを認識するT細胞のClonal expansionがあることがわかった。一方、本症患者が共通の主要組織適合抗原(MHC)を有することを利用して、当核MHC分子に結合するペプチドをYo/Hu抗原の塩基配列から求め、合成ペプチドを用いて、本ペプチドに反応するCTL活性を解析し、本症患者末梢血CD8陽性T細胞中に、本ペプチドに対するCTL活性を証明できた。さらにHLA class I分子上に提示されYo/Hu蛋白に含まれる複数のペプチドを作成し、同ペプチドを取り込んだ自己細胞を標的として患者リンパ球がこれらの標的細胞に対してCTL活性を有することを証明した。さらに共通のMHCを有するマウス由来の樹状細胞に各抗原ペプチドを呈示させ、リンパ節に移植してマウスを感作し、感作マウスのCD8陽性細胞から、抗原ペプチドに感受性を有するT細胞クローンを作成している。
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