平成11年度はパーキンソン病と多系統萎縮症におけるグリア封入体の出現に関し免疫組織化学的・電顕的検討を行ない、グリア細胞におけるα-synucleinの異常蓄積は、多系統萎縮症ではオリゴデンドログリア内に生じ、中枢神経系に広範に分布しているのに対し、パーキンソン病ではアストロサイトとオリゴデンドログリア内に形成され、その出現には比較的長い経過を必要とし、脳幹にほぼ限局して出現することを明らかにした。 平成12年度はα-synuclein結合蛋白のひとつであるsynphilin-1に対する抗体を用い、レビー小体病(パーキンソン病およびレビー小体型痴呆)と多系統萎縮症の免疫組織化学的検討を行なった。正常脳ではsynphilin-1抗体はニューロピルを細顆粒状に染め出し、シナプス前終末に存在すると考えられた。パーキンソン病およびレビー小体型痴呆では脳幹型レビー小体の大部分がsynphilin-1陽性を呈した。α-Synuclein抗体ではレビー小体のcoreよりもhaloがより強く染色されリング状を呈するものが多いのに対し、synphilin-1抗体ではレビー小体のcoreがより強く染色された。皮質型レビー小体も少数ながらsynphilin-1陽性であった。一方、、α-synuclein陽性であるpale bodyおよびLewy neuritesはsynphilin-1陰性であった。多系統萎縮症では多数のグリア封入体がsynphilin-1陽性を呈した。α-Synuclein抗体では神経細胞の胞体、突起および核内にも陽性構造物が認められたが、synphilin-1抗体ではそのような構造物は認められなかった。アルツハイマー病に認められる神経原線維変化および老人斑はsynphilin-1陰性であった。すなわち、synphilin-1はレビー小体とグリア封入体に発現していること、しかし、その局在は必ずしもα-synucleinとは同一でないことが明らかにされた。 さらに、本研究ではレビー小体型痴呆では神経細胞のみならずグリア細胞にもα-synucleinの異常蓄積が広範に生じていることを明らかにした。また、多系統萎縮症の長期経過例では前頭・側頭葉、特に白質が高度に侵されること、さらにそうした例では神経細胞とグリア細胞の両者にα-synucleinとリン酸化tauの細胞内共存が起こりうることを初めて示した。
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