抹消神経の軸索変性に伴う2次性脱髄後に生じる変性ミエリンは、Schwann細胞や侵入してきたマクロファージなどに取り込まれ、一部は軸索の再髄鞘化に利用されると考えられているが、変性ミエリンがどのように再利用されるかについての詳細は不明である。近年、動脈硬化の研究分野において、酸化LDLを主とする変性LDLをリガンドとするマクロファージスカーベンジャー受容体(MSR)の役割が注目されているが、我々は、MSRを介する酸化LDLの処理機構が変性ミエリンの処理/再利用にも関与しているのではないかという仮説をたて、Macrophage type1 and type2 class-A scavenger receptors(MSR-A)のホモノックアウト(MSR-A-/-)マウスを作成し、挫滅後の再生・回復過程において正常と異なる変化を示すかどうかを病理学的に検討した。その結果、MSR-A-/-群の挫滅3週間後において挫滅部位に一致して、1・2層から成るsmall onion-bulbが多数みられ、しかも抗酸化phosphatidy1-choline抗体陽性のミエリンやmyelin ovoidが多数観察された。 phosphatidy1-cholineはミエリンを構成する主要リン脂質であり、その酸化物はMSR-Aのリガンドの1つと考えられている。MSR-A欠損により酸化脂質をスカベンジする機能が低下し、正常な髄鞘再生が妨げられ、その結果onion-bulbが高頻度に出現したと考えられた。 本研究はMSR-Aノックアウトマウスを用いることにより、一回の挫滅病変で末梢神経にonion-bulbを高頻度に形成させる系を確立するとともに、onion-bulb形成の機序を考える上で重要な示唆を与えている。
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