研究概要 |
パーキンソン病群と正常人群とを比較し,大脳誘発電位の後期成分P300に振幅低下が認められたが,早期成分がどのように変化するのか,まだ明らかでない.われわれは,図形選択課題を用いて,正中後頭部脳波早期成分に注目し,痴呆を伴わないパーキンソン病患者の視覚連合野における情報処理機能を評価した. パーキンソン病群(PD)は34例[平均年齢65.3±8.5歳],正常対照群(NC)は26例[平均年齢64.8±8.4歳]である. 誘発電位は正中後頭部(Oz)から記録した.刺激開始点から60から90msに出現する陽性ピークをP1,90から180msに出現する陰性ピークをN1,150から270msに出現する陽性ピークをP2と定義し,それぞれについて潜時と振幅を測定した.両群間の比較にはstudent's t-testまたはtwo-way ANOVA検定を用いた.パーキンソン病群で評価したWAIS-R,運動障害スコア,SPECTのデータと,正中後頭早期成分との相関も検討した. 両群いずれにおいても,標的に対するN1振幅は非標的に対するN1振幅より有意に大きかった(p<0.0001). PD群の標的N1振幅(oddba11課題)は,WAIS-Rの言語性IQ(r=-0.50,p:0.003)、数唱(r=-0.46,p=0.007)、類似(r=-0.53,p=0.003),SPECTの右側頭葉脳血流(r=-0.48,p<0.05)とそれぞれ有意な相関を示した.PD群の標的P2振幅(oddba11課題)は,運動障害の筋固縮(r=0.41,p=0.03),後方突進(r=0.44,p=0.01), SPECTの右側頭葉脳血流(r=-0.42,p<0.05),左後頭葉脳血流(r=-0.49,p<0.05)とそれぞれ有意な相関を示した. 標的に対するN1振幅が非標的に対するN1振幅より大きかったことから、N1成分は選択注意情報処理を反映すると考えられた.パーキンソン病におけるN1潜時の短縮は注意機構障害のためと推測された.N1振幅の低下は、パーキンソン病の言語性IQ低下,右側頭葉障害,運動準備機構障害を反映すると考えられた.
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