我々は脳内コレステロールホメオスタシスの制御調節機構を理解するため、これまで脳内ての細胞間コレステロール輸送を主要に担う脳内産生HDLについて、その主たる供給細胞であるアストロサイトに於ける産生機構とその制御の生理機能を研究してきた。ラット胎児大脳細胞を一ヶ月間長期培養した後に調製されたアストロサイトは、通常の一週間短期培養胎児大脳から得られたそれに比べ、細胞コレステロールレベルの減少が認められるとともに、HMG-CoA reductase活性上昇に基づくコレステロール合成の増加とapoE合成・分泌の増強が認められ、HDL産生が著明に上昇していた。一方、短期培養大脳から得られたアストロサイトを大脳長期培養濾液で刺激すると、長期培養大脳細胞から得られたアストロサイトと同様のapoE-HDL産生とコレステロール代謝亢進に基づく変化を引き起こした。そこで、脳内で作用する栄養成長因子等を検索すると、神経細胞やアストロサイト自身が産生するaFGFに大脳長期培養濾液と同様のapoE-HDL産生亢進活性が認められ、培養濾液を抗aFGF抗体で処理するとその刺激活性は消失した。こうして、大脳細胞の長期培養によって、培養濾液中にはaFGFが放出され、それがアストロサイトを刺激してapoE-HDL産生を亢進させていることが分かった。大脳細胞の長期培養では、開始後一週間でニューロンに最も強い神経突起進展が観察されるが、その後は次第にニューロンは死滅していった。シグナルペプチドのないaFGFの放出の機序は未解明であるが、こうしたニューロンの損傷などで放出され、その結果アストロサイトのapoE-HDL産生を促して、これが神経突起再生などの障害修復機転におけるコレステロール供給に役立っているものと考えられる。
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