近年のアルツハイマー病に関する研究成果は、アルツハイマー病の成因にアミロイド蛋白が深く関与していることを示唆してきた。しかし、その詳細は不明である。本研究では、アミロイド蛋白が培養海馬神経の軸索輸送に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、軸索輸送の側面からアルツハイマー病の発現機序を考察した。実験は、ビデオ増感顕微鏡を用いて培養ラット海馬神経細胞における軸索内粒子の軸索輸送をリアルタイムに観察することにより行った。アミロイド蛋白を培養海馬神経細胞に投与すると、順行性、逆行性に輸送される軸索内粒子数がただちに減少し、この効果は投与期間中持続した。アミロイド蛋白の濃度を上昇させると非可逆的進行性に粒子数の減少が起こった。同時にミトコンドリアの軸索内輸送も抑制された。特に、パッチパイペットを用いてアミロイド蛋白を細胞内に投与した場合、著しい軸索輸送の抑制が観察された。アミロイド蛋白の軸索輸送抑制作用は、タウ蛋白リン酸化酵素の一種Cdk5(サイクリン依存性キナーゼ5)の阻害薬であるbutyrolactne Iの前処置により阻害された。以上の結果から、アミロイド蛋白は海馬軸索輸送をミトコンドリアの輸送を含め抑制することが明らかとなった。この作用はCdk5の活性化を介してタウ蛋白をリン酸化して発現すると考えられた。アミロイド蛋白による軸索輸送抑制作用はアルツハイマー病の成因に関与すると考えられた。
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