卵巣癌、子宮癌や乳癌を伴う傍腫瘍性小脳変性症の患者の血清や脳脊髄液に、神経蛋白pcd-17に対する抗小脳Purkinje細胞質抗体(Yo抗体)や細胞障害性T細胞が出現しており、発症に液性免疫及び細胞性免疫の関与が想定されているが、その直接の意義は不明である。また、液性及び細胞性免疫の標的抗原であるpcd-17は発症機序に重要な役割を果たしていると推定されるが、その生物学的機能の詳細は明らかでない。本研究では本疾患の神経抗原の機能の解明を目的として研究を進めた。pcd-17遺伝子をbaitとしたtwo-hybrid法により、ヒト脳由来cDNAライブラリーからpcd-17と結合する蛋白の同定を試みた。その結果、この神経抗原pcd-17は、MORF蛋白ファミリーに属し、細胞周期に関連するhelix-loop-helix leucine zipper蛋白であるMRG Xと結合することが明らかになった。MRG X蛋白は単独でT98Gグリオブラストーマ細胞に過剰発現させることによって、核の形態の異常を惹起して細胞死に至らしめるが、pcd-17をMRG Xと共に過剰発現することによって、pcd-17蛋白はMRG X蛋白と結合して核内へ移行し、核の形態の異常変化と細胞死を抑制し得ることが証明された。このことより、この抗原の機能が神経細胞の細胞周期の調節に関連していることが示唆された。このように傍腫瘍性神経変性症の抗原蛋白の神経細胞における転写調節と細胞周期の調節に関与している可能性が明らかになり、実験動物にヒト傍腫瘍性神経変性症の免疫環境を誘導し得ることを示した。
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