傍腫瘍性神経症候群の発症機序には、液性免疫及び細胞性免疫の双方の標的抗原である神経蛋白がに重要な役割を果たしていると推定されるが、その生物学的機能にっいては不明である。本疾患の神経変性機序の解明を目的として、本疾患の神経抗原を用いた疾患モデルの開発と、神経抗原の細胞内機能の解明を目的として3年間の研究を進めた。平成11年度は傍腫瘍性小脳変性症に関連する神経抗原pcd-17の転写調節における役割について、NF-kappa B遺伝子と共に神経芽腫細胞に導入し、そのレポーター活性を検討した。その結果、pcd-17は、NF-kappaBに対して転写活性を抑制することを見出した。平成12年度はDM免疫によりヒト傍腫瘍性神経症候群にみられる生体内の腫瘍による免疫環境をin vivoに誘導できるかについて検討した。その結果、実験動物においてDNA免疫の実験系により抗神経細胞抗体と神経抗原に特異的な細胞障害性T細胞を誘導することを示した。このDNA免疫の手法は、傍腫瘍性神経症候群のin vivoで免疫現象を解析する上で有用であると考えられる。pcd-17はそのアミノ酸構造より、他の蛋白と結合して転写機能に作用すると考えられる。平成13年度にはpcd-17遺伝子をbaitとしたtwo-hybrid法により、ヒト脳由来cDNAライブラリーからpcd-17と結合する蛋白の同定を試みた。その結果、この神経抗原は細胞周期に関連するMRGXと結合することが明らかになった。MRGX蛋白は単独でT98Gグリオプラストーマ細胞内で核の形態変化を惹起し、細胞死に至らしめるが、pcd-17はMRG X蛋白と結合して核内へ移行し、核の形態変化と細胞死を抑制し得る。このことは、この抗原の機能が神経細胞の細胞周期の調節に関連していることを示唆した。
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