研究概要 |
本年度は,ランダムドットキネマトグラムを利用して,視覚性運動刺激を作成し,実験を行った.視覚性の運動知覚には,物体の運動方向とその速度の検出が重要である.たしかに,サルの視覚系の運動視に関与している領域は,ある一定の運動方向と速度に特に反応する神経細胞が多く発見されている.またヒト運動視中枢も同様に一定の運動方向に反応する神経細胞が集合していると機能的磁気共鳴画像の実験から示唆されている.ヒト運動視中枢はサルのMT(V5)といわれている領域とほぼ同じといわれているので,その神経の受容野は視覚で数度以上ある.従ってランダムドットが一定の方向に運動しているときは,ヒト運動視中枢は反応するが,それぞれ違う方向に運動しているときには,全体として一定の運動方向を持たないのでヒト運動視中枢は反応しないか,少なくとも弱いと予想される.これを脳磁図を用いて検討した.5人の被験者にて,ランダムドットの静止画から一定の方向に動き出す視覚刺激と,同じく静止画からそれぞれがランダムに動きだす刺激に対する脳磁場反応を比較検討した.一定方向に動き出すときにはやや運動速度に反比例して反応の頂点潜時が変化したが,ランダムに動き出すときは変化しなかった.しかしいずれも潜時は約250msで,また反応の振幅も両者に差はなかった.この結果はヒト運動視中枢がランダムドットが全体として方向性を持たなくても強く反応することを示す.
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