研究概要 |
プロテインキナーゼC(PKC)は、ジアシルグリセロール(DG)により活性化され、心肥大や梗塞後心室リモデリングの過程で重要な役割を担う。ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)はDGをフォスファチジン酸に変換する酵素であり、PKCの活性調節因子である。ラットでは5種のDGKアイソザイムがクローニングされ、脳内遺伝子発現の多様性が報告されているが心臓での報告はない。本研究では、DGKの各アイソザイムのラット正常心筋及び梗塞心筋における発現を検討した。ノーザンブロット法でラット正常心筋に発現するDGKアイソザイムを同定、in situハイブリダイゼーション法および免疫染色法にて心筋梗塞モデルにおける各アイソザイムの発現局在および経時的変化を検討した。さらに、アンジオテンシン変換酵素阻害薬カプトプリルの影響をreverse-transcription polymerase chain reaction法を用いて経時的に検討した。正常心筋ではDGKα,ε,ζの3種のアイソザイムの発現を検出した。DGKεは非梗塞巣に比し、梗塞巣及び境界領域で発現が低下していた。DGKζは梗塞後3日、7日では壊死心筋周囲及び境界領域で非梗塞巣に比べより強い発現がみられ、21日後においても梗塞巣中心部に発現が残存した。DGKζの発現増強部位には主に顆粒球及びマクロファージが観察された。21日間のカプトプリル投与により、非梗塞巣のDGKεの発現低下は有意に抑制され、シャム手術群と同等の発現レベルに保たれた。以上から、DGKεおよびDGKζが心室リモデリングや心肥大に関与する細胞内情報伝達系の一端を担う可能性が示唆された。近年PKCβの特異的阻害剤が心肥大を退縮させることが動物実験レベルで証明されており、PKCの調節因子であるDGKも将来治療標的となり得ると考えられる。
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