【目的】冠血管障害に基づく心血管疾患は加齢と共に増加する.血管内皮細胞が血管トーヌスの制御および心血管機能の維持に重要な役割を担っていることが明らかになりつつある.我々は、エンドセリン(ET-1)やアンジオテンシンII(AngII)のような強力な血管収縮物質に曝されたとき、血管内皮細胞から拡張因子が産生遊離され防御的に働くが、加齢に伴いこの機能が低下すること、その結果強力な冠血管収縮作用が惹起され、これが心疾患の発症や進展につながるのではないかと推測し、主として血管内皮細胞から遊離される防御因子を検索してきた.その結果、NOの産生遊離機能が特異的に低下していること、一方PGI_2の産生遊離機能は加齢によってむしろ増加していること、このPGI_2産生遊離機能の増加は、NOの産生遊離機能低下の代償機構である可能性を示唆した.本課題では、NOの産生遊離機能低下の機序に加えて、PGI_2の産生遊離機能増加の機序および意義を明らかにする目的で研究に着手した.【方法】3(若齢)と27カ月齢(老齢)のFisher344rat(♂)の摘出心臓および胸部大動脈を用いた.心臓はLangendorff式に定圧灌流し、冠血流量変化を記録した.冠流出液を分取し、PGI_2を6-keto-PGF1αに対する酵素免疫法により測定した.また、大動脈よりRNAを抽出しリアルタイムPCRを行うことにより、PGI_2受容体、NOおよびPGI_2合成酵素とCOX-1の老化による変動を定量した.【結果および考察】灌流心臓をET-1、AngIIによって刺激し、冠血管を収縮させた場合、老齢ラット冠灌流液中への6-keto-PGF1α遊離量は、若齢ラットよりも増加した.PGI_2合成酵素の発現は、老齢ラット大動脈において有意に増加した.COX-1も同様に老齢ラットにおいて増加した.一方、PGI_2受容体発現には、有意な加齢変化は認められなかった.以上の結果から、老化に伴うPGI_2合成酵素およびCOX-1発現の増加が、老齢ラットでのPGI_2産生増加に関与することが示唆された.なお、NO合成酵素およびアルギニン取り込み機能の加齢変化およびPGI_2の役割について現在検討中である.
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