【目的】心疾患患者において、運動時の運動筋への血流(酸素供給)の程度と乳酸濃度上昇の因果関係については多くの説があり、未だ統一した見解は得られていない。本研究においては心疾患患者を対象に運動負荷試験を行い、骨格筋の酸素分圧と乳酸濃度の関係を詳細に検討し、またこれらの関係に強心薬(ドブタミン)の投与がどのような影響を及ぼすか検討を行った。 【方法】心疾患患者10例(62±8歳)を対象に、自覚的最大負荷まで運動負荷試験を行った。運動負荷中は大腿静脈に留置したカテーテルから1分間に採血し、血液ガスと乳酸濃度の測定を行った。なお同一患者において約一時間の間隔を開けて、ドブタミンを6μg/kg/minを投与(静注)下状態においても運動負荷試験を行った。 【結果】心拍数は安静時運動負荷中とも、ドブタミンの投与により有意に増加した。両負荷試験とも大腿静脈血の酸素分圧は運動開始後速やかに低下し、ほぼ最低値(Critical PO2)に到達した後に乳酸濃度の増加が始まった。酸素分圧(X軸)と乳酸濃度(Y軸)の関係はドブタミンの投与に関わらず各症例で同様のL字型のパターンを示したが、Critical PO2はドブタミンの投与により20.5±2.0から21.9±2.4torrへ有意に増加した(p<0.01)。 【結論】心疾患患者は運動負荷中に骨格筋での酸素分圧が徐々に低下し、最低値に到達後に初めて乳酸の産生が生じることが判明した。また心疾患患者に対する強心薬の投与は運動筋の酸素分圧-乳酸濃度関係を右方にシフトさせ、酸素分圧の最低値を増加させることが明らかとなった。次年度以降はさらに、心疾患患者に対する運動療法がこれらの骨格筋の酸素分圧-乳酸濃度関係にどのような影響を及ぼすかを検討する予定である。5
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