【目的】本研究は、1)心不全患者における運動時の骨格筋での酸素分圧-乳酸濃度の関係、2)心不全患者に対し強心薬を投与したときの骨格筋での酸素分圧-乳酸濃度関係の変化、3)心不全患者の骨格筋の酸素分圧-乳酸濃度関係に対する運動療法の効果、を明らかにすることを目的とした。 【方法】運動負荷中の酸素分圧-乳酸濃度関係:心不全患者に対しエルゴメータを用いた運動負荷試験を行い、酸素摂取量の連続的な測定とともに、大腿静脈に留置したカテーテルから1分毎に採血し、酸素分圧、酸素飽和度、乳酸濃度等の測定を行った。強心薬投与:心疾患患者を対象に、ドブタミンを6μg/kg/minを投与した状態とドブタミンを投与しない状態で運動負荷試験を行った。運動療法:心不全患者を運動療法群と対照群に分け、運動負荷試験を運動療法(対照群では通常生活)前と2ヵ月後に行った。運動療法は各症例の最大酸素摂取量の60%に相当する強度の運動を1回15分、1日2回、週4日、2ヵ月間行うように指導した。 【結果】骨格筋(大腿静脈)の酸素分圧は運動負荷の開始とともに徐々に低下し、負荷途中で最低値(Critical PO2)に到達した。大腿静脈血の乳酸濃度は酸素分圧がCritical PO2に到達した時点より増加し始めた。CriticalPO2に到達後は、その後の負荷の増量に関わらず酸素分圧はほぼ不変であった。ドブタミンの投与により、嫌気性代謝閾値(AT)は有意に改善し、Critical PO2も有意に増加した。運動療法群としてエントリーした6例のうち5例が運動療法を終了したが、5例とも最大運動能が改善し(54.4±14.5から72.6±24.9W)、うち4例においてはCritical PO2の上昇も認めた(17.0±3.6から18.1±2.9mmHg)。 【結論】心疾患患者における強心薬の投与と運動療法は、運動筋の酸素分圧-乳酸濃度関係を右方にシフトさせ、酸素分圧の最低値(Critical PO2)を増加させることが明らかとなった。
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