β受容体刺激によりNaチャネルがCaイオン透過性を獲得するというslip-mode説の妥当性を、単一電流レベルで検討した。ラット・モルモット単離心室筋細胞から単一Na電流を記録すると、細胞外Ca濃度0.1mMではテスト電位に応じてその振幅がほぼ直線的に変化したが、Ca濃度を1mM以上にすると-40mV以上でslope conductanceが減少するのみならず、-50mVより深い電位では電圧駆動力の増加にかかわらず振幅が減少していった。このCaイオンによるNa電流の抑制は、チャネル内のCaイオンがチャネル蛋白に電位依存性に結合し、これがNaイオンの動きをブロックすることで説明される。イソプロテレノール5μMの投与はモルモット・ラットいずれの細胞においてもチャネル開口確率を増加させたが、0.1〜10mMのCa濃度で各テスト電位における単一Na電流の振幅は不変であった。ベラトリジン投与はNaチャネルの一価イオンの選択性を低下させるが、この際単一電流振幅は減少しチャネル開口時間は延長する。この条件下においても、イソプロテレノール投与前後で単一電流の振幅は不変であった。これらの結果はイオンとチャネル蛋白の相互作用によって透過性が決定されるmulti-ion poreとしてのイオン透過性モデルの考えや、Caイオンのチャネル内結合部位を仮定する電位依存性ブロックの考えとは両立せず、生理的な交感神経刺激によってnativeのNaチャネルがslip-modeに移行してCa流入に寄与する可能性はないと考えられる。一方LedererらはNaチャネル発現実験でもβ受容体刺激による逆転電位のシフトや細胞内Ca濃度の増加を観察し、その発現にはサブユニット依存性が認められると報告している。"イオンチャネルのイオン選択性の調節"の持つ生理的意義は大きいため、これらの点も含めてさらに検討が必要である。
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