動脈硬化や血管形成術後の血管傷害においては血管壁の炎症がその病変形成に重要である。我々は、ラット頚動脈バルーン障害モデルにおける内膜肥厚と血管リモデリングについて、Pセレクチンを介した白血球、血小板の役割について検討している。免疫組織化学染色によりPセレクチンの発現を観察したところ、内皮障害後1日から3日にかけて障害血管内膜面に付着した活性化血小板に強く発現していた。以後、徐々に発現は減少し14から28日の経過で消退した。抗ラットPセレクチン抗体(S789G)による治療群(P群;n=7)では新生内膜肥厚がマウスコントロール抗体を投与した対照群(C群;n=7)に比べ有意に抑制された。また、血管の外弾性板の長さすなわち血管の外径はP群においてC群に比べ有意に大きく、血管の収縮リモデリングが抑制され、これらの結果障害血管の内腔面積はP群においてC群に比べ有意に大きく、2ヶ月後の慢性期まで維持された。バルーン障害後8日における新生内膜および中膜のCD45陽性細胞数/総細胞数をC群(n=6)とP群(n=6)で比較したところ有意に治療群で減少していた。走査電子顕微鏡による障害血管内腔面の観察では1から5日で多数の血小板が内皮下組織に粘着し、白血球の接着像も観察された。7日より粘着している血小板数は減少したが、14日においても平滑筋細胞間などに血小板の付着が観察された。一方、P群は14日における内腔面はすでに増殖平滑筋により偽内皮化されており、血小板の付着も減少していた。 抗P-セレクチン抗体投与による治療は、バルーン障害後の血管リモデリングを抑制した。これらの機序として抗P-セレクチン抗体が活性化血小板に発現したP-セレクチンを介した白血球の動員抑制し、また、障害内膜面における増殖平滑筋による偽内皮化を促進し、血小板の付着を減少させたことが示唆された。
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