研究概要 |
本年度(平成12年度)は、昨年度作製したラット心の60分左冠動脈結紮+解除(虚血・再灌流)による大梗塞モデルに対し、pancaspase阻害剤であるBoc-Asp-FMK 10μg/mlを1日1回梗塞作製3日後から4週後まで連日腹腔内投与を行い、12週後まで飼育した。屠殺前に心エコーを施行し、かつミラーカテーテルを頚動脈から左室に挿入して心内圧を測定することにより心機能を評価した。形態学的検索により全身臓器のうっ血と心室のリモデリングを調べ、さらに光顕・電顕レベルで組織学的検討を行った。これらの機能的・形態的パラメーターを、pancaspase阻害剤を投与しなかったコントロールの梗塞ラットと比較した。 梗塞作製後12週において、無治療群に比し治療群では心室の梗塞後リモデリングが有意に抑制された。すなわち、心エコー上左室の拡張末期径・収縮末期径ともに有意に減少し、梗塞巣の壁厚の菲薄化も有意に抑制されていた。これは剖検時の計測によっても確認された。心機能も心エコー上fractional shorteningの有意な改善、ミラーカテーテルによりdeveloped pressure,±dP/dtの有意な改善が治療群で認められ、剖検にても肺、肝、腎などのうっ血の軽減が認められた。組織学的には治療群の梗塞巣においては無治療群に比し細胞数の増加がみとめられ(無治療群ではほとんど線維性のスカーに置換)、ほとんどが筋線維芽細胞と考えられたが、電子顕微鏡による観察にて成熟した収縮型の平滑筋細胞の存在が治療群においてみとめられた。 昨年度われわれは、2週後の梗塞巣において治療群で筋線維芽細胞を含む心筋間質細胞のアポトーシス死が抑制されたことを確認した。今回の結果はpancaspase阻害剤の投与により梗塞後アポトーシスを免れた間質細胞が生き残り梗塞巣の菲薄化を軽減し、心室のリモデリングを軽減することで梗塞後心不全の増悪を抑制したと考えられる。また、生き残った筋線維芽細胞の収縮能も心不全軽減に寄与した可能性もある。本研究の結果は梗塞亜急性期のpancaspase阻害剤投与が梗塞後心不全の予防法として臨床的に有用である可能を示唆する。
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