研究概要 |
アポトーシスで除去される運命にある心筋梗塞後の肉芽組織細胞をcaspase阻害剤投与により温存することで梗塞後の心室リモデリングならびに心不全の進行を予防できるか否かを検討するために、60分左冠動脈結紮後再灌流によるラットの心筋梗塞モデルを作製しpancaspase阻害剤であるBoc-Asp-FMK(BAF)10μg/mlを、梗塞作製3日後から2週後または12週後まで連日腹腔内投与した(各n=5)。本モデルでは左室自由壁の60%以上を占める大梗塞ができるため、良い梗塞後心不全モデルとなる。コントロールとしてはvehicle投与群(無治療群)を作製した(各n=5)。梗塞2週後、無治療群に比し治療群の梗塞巣においてDNA断片化を呈する(TUNEL陽性)肉芽細胞数が有意に減少しており、BAFは肉芽細胞のアポトーシス抑制に有効であることが判明した。さらに梗塞12週後において、無治療群に比し治療群では心室の梗塞後リモデリングが有意に抑制された。すなわち、心エコー上左室の拡張末期径・収縮末期径ともに有意に減少し、梗塞巣の壁厚の菲薄化も有意に抑制されていた。これは剖検時の計測によっても確認された。心機能もfractional shorteningの有意な改善、ミラーカテーテルによりdeveloped pressure,±dP/dtの有意な改善が治療群で認められ、剖検にても肺、肝、腎などのうっ血の軽減が認められた。組織学的には治療群の梗塞巣においては無治療群に比し細胞数の増加がみとめられ(無治療群ではほとんど線維性瘢痕に置換)、ほとんどが筋線維芽細胞と考えられたが、電子顕微鏡による観察にて成熟した収縮型の平滑筋細胞の存在が治療群においてみとめられた。本研究の結果は梗塞亜急性期のpancaspase阻害剤投与が梗塞後心不全の予防法として臨床的に有用である可能性を示唆する。
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