研究概要 |
一旦形成された動脈硬化症の治療法はまだなく、抗高脂血症薬によるプラーク安定化療法も20%前後の発症抑制に過ぎない。我々は家兎進行動脈硬化症ではNO分泌及び内皮依存性弛緩反応の低下は血清脂質を是正しても回復しない事を観察した。高脂血症、糖尿病、加齢の各動脈硬化危険因子が単独又は相互に作用する進行動脈硬化モデルを作成し,誘導型NO合成酵素(iNOS),活性酸素(O_2^-),ONOO-及びシトルリン-アルギニンサイクルの役割を検討した。 結果)1)動脈硬化症におけるiNOS,ONOO-の役割:従来はeNOSの研究が主体で、iNOSの役割は不明であった。我々は、動脈硬化進行病変のマクロファージ、T細胞にiNOSを認め、周囲にONOO-を認めた。当該部位はNOSの基質である酸素及びアルギニンの不足領域でiNOSがO_2^-を産生すると推測された。2)シトルリンアルギニンサイクルの動脈硬化病変での変動:アルギニンは血中に多量に存在するが、アルギニン投与は抗動脈硬化作用を認める(アルギニンパラドックス)。動脈硬化血管、退縮血管における、アルギニン代謝経路;アルギナーゼI,II、及びシトルリン(NOS反応物質)からアルギニン再生成を誘導するシトルリン-アルギニン回路の動態を検討した。高脂肪食負荷動脈硬化形成時に、飲水中にシトルリンを投与し、無投与時、アルギニン投与時と比較検討した。動脈硬化進展抑制には飲水中のアルギニン濃度2%以上(3g/kg)が必要であり、シトルリンには作用はなかった。3)動脈硬化血管におけるニトログリセリン耐性獲得とシトルリン-アルギニンサイクル:加齢及び糖尿病各々のみでは内皮機能の低下のみを認めたが、加齢糖尿病モデルでは、平滑筋機能であるニトログリセリンの反応が低下し耐性が形成された。この耐性解除にはシトルリン及びアルギナーゼ阻害剤が部分的に有効であった。
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