研究概要 |
虚血心筋においては、細胞内ATPレベルが低下することにより種々の代謝、電気生理学的、収縮拡張機能に変化が生じる。重症の虚血に対して心筋保護を司っている最も重要な因子の一つにKATPチャネルの活性化が考えられている。すなわちこのチャネルが細胞内ATPレベルが低下すると開口し、カルシウム電流を抑制し、ATPが温存される。われわれは虚血心筋モデルとしてラット冠動脈結紮を行い、種々の条件下でKATPチャネルの遺伝子、蛋白発現レベルを測定した結果、KATPチャネルのサブユニットによってdifferential expressionが行われていることを見いだした。つまりより軽い虚血で開口するKir6.1が虚血刺激後に過剰発現することで次の虚血刺激に対して準備するという合目的的な機構があることが示唆された。また正常心筋細胞を用いてパッチクランプ法でKATPチャネル活性を調べると均一であるが、上記のようにサブユニットの発現効率が異なった場合に作られうると想定されるヘテロ体のKATPチャネルの活性を検討するために、Kir6.1,Kir6.2,Kir6.1-6.2tandemといった複合蛋白を遺伝子発現させてそのチャネル活性を測定すると、それぞれ異なりた電気特性を持ったチャネル分子が構成されることが判明した。このことは従来行われているような正常心筋細胞で発現していると考えられているKir6.2のみを用いたパッチクランプ実験では虚血心筋における電気生理医学的イベントは解析できないことを示している。また、KATPチャネルのサブユニットごとの細胞内での発現を共焦点レーザー顕微鏡で観察すると、それぞれのサブユニット(Kir6.x, SURx)ごとの組み合わせで細胞膜へのKATPチャネル輸送効率が大きく変化することが示された。これらより細胞内ATPレベルによる遺伝子発現のサブユニット特異的な相違が微妙な細胞膜でのイオンチャネルを介した電気的活動の変化を通じて、虚血に対して心筋細胞が細かく対応している機序を示唆している。更に、これらのチャネルの電気生理学的機能について、薬物負荷、シグナルトランスダクションにおける位置についても研究を行い、KATPチャネルの抗不整脈剤、Na-KATPase, phospholipase C等による機能的意義をも明らかにした。
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