平成11年度において、マウスThrombospondin(TSP)1cDNAより作製した発現ベクターを用いて、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞に導入し、stable transfectionによるクローン化を試みた。しかしながら、ベクター単独導入細胞に比しTSP1導入細胞は増殖遅延を認め、クローン化は不可能であった。顕微鏡観察では、核の凝集化、細胞膜の変形等のアポトーシスを示唆させる形態を示していた。この結果は、既報したTSP1は血管内皮細胞に対し増殖抑制効果を有するという結果に一致する所見であり、その増殖抑制効果がアボトーシスによることを示唆させる。Stable transfectionによる実験系は困難と考え、transient transfectionによる実験系とTSP1蛋白添加実験により、アポトーシス誘導の再検証とその細胞内情報伝達系の検討を行っている。Transient transfectionおよびTSP1蛋白によりアガロース電気泳動でDNAの断片化を認め、TSP1は内皮細胞にアポトーシスを誘導させた。その細胞内情報伝達系として、研究代表者らが既報したoxysterolの血管内皮細胞アポトーシス誘導作用に関わる細胞内情報伝達経路の一つであるp38 MAP kinase活性に注目した。また、増殖系の細胞内情報伝達経路として、p42/44 MAP kinaseおよびAkt-1についても検討を行っている。これまで、TSP1による血管内皮細胞のアポトーシス誘導にp38 MAP kinaseの活性化が一部関与している事が明らかになり、増殖系情報伝達系のp42/44 MAP kinaseとのクロストークの可能性を示唆する実験結果が得られている。平成12年度には引き続き情報伝達経路の中枢側(インテグリン、CD36)および末梢側(caspase 3)について、p38 MAP kinaseとの関連を解明していくと共に、増殖系との関係についても検討していく予定である。
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